アイルランド共和国のショーン・ローリーが躍動した。バックナインの終盤こそ勢いを失いスコアを落としたものの、最初の10ホールで6つのバーディを奪った貯金を生かし、決勝ラウンドを首位タイで迎えることに成功。最終日にクラレットジャグと対面する瞬間を意識しても恥じることのない、十分なパフォーマンスを見せた。
この日は午後スタート組に入ったが、好天に恵まれた早い時間帯にスタートした選手が好スコアを連発。前日を4アンダーの好位置で終えたローリーだが、自身を追い抜いていく姿を目の当たりにした。しかし、決して焦ることなく、ひとたびコースに飛び出したアイルランドの雄は、檻から放たれた猛獣のごとく一気にスコアを伸ばし、ライバルたちを逆転していった。
1番から3連続バーディで波に乗ると、5番でもスコアを一つ上げる猛チャージで8アンダー。前方をひた走るJ.B.ホームズをあっさりと捉えた。8番でさらにバーディを奪い、10番ではモンスター級のロングパットを沈めて今大会初の2桁アンダー。ホームズに2打差をつけた。
11番以降はアウトで見せた圧巻のゴルフが鳴りを潜め、パーセーブに終始。14番でスコアを一つ落とすと、最終10番でも2.5メートルのパーパットを外してしまった。それでも2ラウンド連続の67をマークし、トータル8アンダー。土曜日は同じく首位に並ぶホームズと最終組でティオフする。
ラウンド後の記者会見で「優勝の二文字がちらつくのではないか?」と聞かれたローリーは、「そうやって聞かれると考え始めてしまうものだ」と笑い、こう続けた。
「もちろん今晩考えるだろう。良い位置につけているのは間違いないんだから。だが、まだ2ラウンド残っているし、立ちはだかるのは世界のトップゴルファーばかりだ」
「私がやらなければならないのはただ一つ。今は好調で、今日も67で回った。明日も自分にとってのベストスコアを出せるように最善を尽くさなければならない。それが結果として、最終日にもつながることを願うばかりさ」
慎重に言葉を選んだのも当然。2014年の9位タイを最後に、予選通過ができていないどころか、昨年のカーヌスティ大会では「苦しんだ」。
「9年間苦楽を共にしたキャディと別れて、いろいろな面で落ち込んでいた。ゴルフも低調で、精神的にも不安定だった。だが、今はまるで違う」
「プロゴルファーのキャリアは長く、私自身10年間プロとしてやってきた。ジェットコースターみたいなものだ。だが、精神的に落ち着いて、気持ちが落ちたときにどのように対処すべきかもわかったんだ。いいときも悪いときも受け入れるようにしなくてはならないことがね」
この精神状態が、最近好調なローリーの強みとなっているのは間違いない。
「もし優勝できなかったとしても、日曜日に優勝争いができたとしたらそれだけでも十分だ。まずは明日コースに出て、いい数字を出したい。もしそれがかなわなかったとしても、それで世界が終わるわけではない。今の心境はそんな感じだよ」
さらに今大会は、準ホームともいえる北アイルランドのロイヤルポートラッシュでの開催。多くのギャラリーがローリーを後押ししている。
「これほど大音量のギャラリーの前でプレーしたことは、おそらくないと思う。1番ホールから信じられないほど素晴らしかった。そんなにたくさんギャラリーが出ていないホールでも、声援がすごかった」
「10番でロングパットを沈めたときには、言葉が見当たらないが、ただただ信じられなかった。最高のフィーリングだから、大観衆から逃げないでプレーするのみ。各グリーン、各ティグラウンドで拍手をもらえてとてもうれしい。だから私としてはただ単に、応援してくれる人のために最善を尽くすのみだ」
“人事を尽くして天命を待つ”。まるですべてを悟った男のスタンスだ。最終日の夕方。すべて決着がついたとき、勝利の女神はほほ笑みかけているのは、この32歳かもしれない。