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全英オープン、勝敗を分けた「パット・イズ・マネー」【舩越園子コラム】
パットのできがスミスとマキロイの命運を大きく分けることになった|(撮影:GettyImages)

全英オープン最終日。トータル16アンダー、首位タイでティオフしたローリー・マキロイが5番と10番でバーディを奪ったとき、あたかも彼が8年ぶりのメジャー優勝へ向かって独走状態に入ったかに見えた。

しかし、マキロイのメジャー5勝目は達成されず、「ゴルフの聖地」セント・アンドリュースで勝利をつかんだのは、4打差の3位タイから最終日をスタートしたキャメロン・スミスだった。前半で2つスコアを伸ばしたスミスは、後半の10番から5連続バーディを奪って単独首位に立つと、最終18番もバーディで締めくくり、8バーディー、ノーボギーの「64」。トータル20アンダーで先にホールアウトした。

最終組のマキロイは18番でイーグルを取らなければスミスに追いつかないという苦境に追い込まれ、そしてグリーン手前からの第2打が直接カップに沈まなかった瞬間、スミスのメジャー初優勝が決まった。

「信じられない。セント・アンドリュースで150周年の全英オープンを制することができて、本当にうれしい」

マキロイは2014年の全米プロ制覇以降、メジャー大会でトップ10入りが9度もあったが、どうしても優勝できず、「今度こそ」と勝利への意欲を燃やしていた。今週はホテルの部屋から見えた全英オープンの象徴的な黄色いリーダーボードを毎日眺めながら「あの最上段にローリー・マキロイの名前が刻まれる絵を思い描いていた」というほど勝利を切望していたが、またしても惜敗に終わってしまった。

だが、メジャーで惜敗続きは実を言えばスミスも同じで、2018年以降、何度も優勝争いに絡みながら、どうしても勝てなかった。

とりわけ、今年4月のマスターズの惜敗はゴルフファンの記憶に新しい。スコッティ・シェフラーと最終日最終組で回ったスミスは、2連続バーディで好発進を切りながら、直後に2連続ボギーで後退。12番で池に落としてトリプルボギーを喫し、3位タイに甘んじると、「ミスが多すぎた。スコッティに脱帽だ」と潔く完敗を認め、勝者を讃えた。

そんなスミスが、この全英オープンでは4日間、ミスを最小限にとどめるゴルフを披露。3日目こそオーバーパーの「73」となったが、「僕のプレーは何も悪くなかった。ただ、ゴルフの神様が今日は僕の日ではないと言っていた」と割り切った。そして最終日は「忍耐」をキーワードに掲げつつ、「グリーン上では距離があってもアグレッシブに行こうと心に決めていた」。

自身の誓い通り、スミスのパターは火を噴き、セント・アンドリュースのうねるグリーンをものともせず、1パットで沈めること6度。最終日を29パットで終えた。

一方、マキロイは最終日に18ホールすべてのグリーンをレギュレーションで捉え、パーオン率100%を誇りつつ、2バーディ、ノーボギーで回った。だが、18ホールすべてを2パットで終えた合計36パットがスミスに大逆転優勝を許す結果を招いた。「僕のプレーは何も悪くなかったが、キャメロンの『64』に脱帽だ」。マキロイは潔く敗北を認め、勝者スミスを讃えた。

2人の勝敗を分けたのはパットの差。「マキロイの完敗」と言うより、「スミスの圧勝」だった。

「子供のころからセント・アンドリュースに憧れていた」というスミス。オーストラリア人選手による全英オープン優勝は1993年のグレッグ・ノーマン以来となったが、メジャーで惜敗を重ねていたスミスの心を突き動かしたものは「1年半前、ある人から『キミは怠惰だ』と言われたこと」だったそうだ。

「それからはドライバーとパターをひたすら練習した。パターはミラーを使って3〜4.5メートルを1日20分、毎日練習した」

地道な練習がメジャー4大会史上のベストスコアに並ぶトータル20アンダーを生み出し、150周年の節目に「ゴルフの聖地」で勝利を挙げる歴史的偉業を導き出した。

パーオン率100%でもマキロイは勝てず、パット数で大きく上回ったスミスが見事な逆転勝利を飾ったこの戦いは、「パット・イズ・マネー」というゴルフの真髄をすべてのゴルファーにあらためて思い出させてくれたのではないだろうか。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>