ロイヤルポートラッシュGCのヘッドプロ、ガリー・マクニール氏はこれまで幾度となく、世界のトップゴルファーたちが18番の花道を歩く姿を見てきた。しかし自身がそのような体験をできるとは、夢にも思っていなかった。
68年ぶりに北アイルランドの地に戻ってきた今大会、第148回全英オープン選手権ロイヤルポートラッシュ大会の決勝ラウンドで、その「まさか」が現実ものとなったのだ。
20年にわたり自身のホームコースとなってきた同GCで、ポール・ウェアリングのマーカーとして、ギャラリーの大観衆の中でマクニール氏は至福の時間を過ごした。
超満員のグランドスタンド、そして世界中のゴルフファンがテレビ中継を観戦している。そんな中で、マクニール氏の放った1番ティショットは左ラフに入っていった。しかし、本人は驚くほどに心を落ち着かせてプレーができていた。
コースの左右、マクニール氏の進む道には、数多くのなじみの顔が並んだ。クラブメンバーたちが“晴れの舞台”でコースを歩くヘッドプロの応援に駆けつけていたからだ。
「1番のティグラウンドでも落ち着いていました。バッグからクラブを抜いた瞬間から、悪いショットになると分かっていましたけど(笑)。でも、多くのメンバーもいましたし、家族や友人も見に来てくれていた。うれしかったです。17番では良いパットも決めて、気持ち良かったですね」
この日、マクニール氏のキャディを務めてクラブプロを励まし続けたのも、その一人。ロイヤルポートラッシュで52年間キャディの仕事をしてきたメンバー、ポール・ロディッチ氏だった。
ゴルフファンとして何度も全英オープン会場に足を運んできたマクニール氏はラウンド後、「信じられない経験だった」と笑顔で語った。
「本当にクレージーな出来事でした。当然、クラブのヘッドプロとして頭の中では長い間考えていたことではありましたが、実際に電話を受けたときは『すごいことになった』と思いましたよ」
緊張のあまり眠れなかったのではないかと思われたが、「昨晩はよく眠れましたね。きょうのゴルフ自体も悪くなかった。パットも良かったですし、ティショットも良かった。スコアはおそらく79か80くらい。本当に楽しかったです!」と明かした。
マクニール氏が世界最古のメジャー大会と恋に落ちたのは1982年のこと。トム・ワトソンがチャンピオン・ゴルファー・オブ・ザ・イヤーに輝いた年だった。以来、ゴルフにのめりこんでいった少年は、世界有数のゴルフコースでヘッドプロを務める立派な成人男性に成長。こうして思いもかげずに、夢の舞台に上がることなったのである。
人生では何が起こるか分からない。ホールアウト後のマクニール氏は「すぐにでも横になりたい!」と疲れた表情を見せたが、その目は少年のように輝いていた。