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トム・ワトソン、自身最後の全英オープンについて語る
「これが最後の全英オープンとなる」と常々口にしていたワトソンが最後のジ・オープンについて語った|(撮影:岩本芳弘)

<全英オープン 事前情報◇15日◇セントアンドリュース・オールドコース(7,297ヤード・パー72)>

1975年にスコットランドの地に降り立ったトム・ワトソン。カーヌスティで全英オープンデビューを果たすと、そのまま初優勝するという偉業を達成する。以来、40年間で全英オープンを制すること4度。計5回の優勝は、1970年以降の現代ゴルフに制限すると、最多勝利回数である。


米国人ながら、ミスター・全英オープンとして英国で愛される存在となった。しかし今大会を最後に出場権がなくなる可能性が高いとして、本人は「これが最後の全英オープンとなる」常々口にしている。そんなワトソンが、前日記者会見でうっすらと涙を浮かべながら、愛してやまない聖地で挑む、最後のジ・オープンについて語った。

■「リンクスコースが好きではなかった」

75年の私はまだ、このスポーツでどのように戦い、稼いでいこうかを学び始めたばかりだった。セントアンドリュースでは幸運だった。風もあまりなくて、当然ラフも深くない。プレーオフでは風をうまく乗り切ることができた。そこからだよ、私の全英オープンのオデッセイ(旅)が始まったのは。

77年のターンベリーで、ようやくプロツアーの一員になった気がした。ベストゴルファーを向こうに回してプレーできる、負かせることができると感じるようになった。それがツアープロになって3、4年経った頃の私の目標となった。もしこのままハードワークをこなして頑張っていけば、いつかそこに達することができるのではないか、と感じるようになったんだ。

そしてターンベリーでジャック(ニクラウス)を相手に勝利して、自分もベストゴルファーに対抗できると気づいた。80年のミュアフィールド、82年のロイヤル・トゥルーン、83年のバークデール… 82年と83年ごろ、ようやくリンクスコースが楽しめるようになった。それまではリンクスがあまり好きではなかったんだ。

本当のことを言えば、78年にセントアンドリュースで初めてプレーした時も、好きではなかったよ。何が起こるか分からないのが嫌だったんだ。ボールが跳ねるのを見るのが嫌だったし、単純にリンクスが嫌いだった。その頃は、宙にボールを飛ばした。ここで、上に向かって打っていたんだ。誰でも知っているように、そのスタイルはリンクスをプレーするうえでは得策ではない。

そして2009年にターンベリーがあった。あの週は、若い奴らを少し怖がらせたんじゃないかな。リーダーボードを見ると、「ワトソン」の名前がある。彼らは「ああ、バッバか」とても思っただろうな。(最終的な結果には)ガッカリしたけど、でも少しは驚かせることができた。あの一週間はいつまでも忘れないだろう。この年齢になって、“キッズ”たちを相手に競い合い、自分のよく知るコースでベストゴルファーと対峙した。

■今年は最後の全英オープン、来年は最後のマスターズ

そして今、セントアンドリュースで最後の全英オープンをプレーすることになった。本当に最後だ。10位以内に入るのは、あまり期待していない。もしトップ10に入れたら、それはとてつもなく喜ばしいことだ。5年間また延長できるのだから。でもないだろうな。とりあえず最終日まで残れることを願っている。この歳、この状況になると、最終日に残れることを願うものなんだ。そうすればようやく、さようならが言える。

これを受けての発表になるが、来年のマスターズも私にとって最後のマスターズとなる。その後はもうプレーしない。出場権はあるが、もうプレーはしないと決めたんだ。オーガスタは私には長すぎる。スキルと飛距離、両方が下降線を辿っている私ではプレーできない場所だ。数週間前にも話をしたが、以前の私にはうまくゴルフをプレーできる道具があった。しかし今は、私の道具箱はもう半分が空になってしまっている。道具がない、もしくは錆びついている。私のようにね。それが今の自分だよ。

今週は、色々な人に「最後の瞬間は何を感じるのか」と尋ねられた。正直、分からない。感情が込み上げてくるのは分かっている。今回は私の最後のジ・オープンということで、スコットランドに友人や家族が多く来てくれている。素晴らしい瞬間になるのは間違いない。金曜日の夜には大きなパーティーを開く予定もある。その日は、4ラウンドプレーするうちの折り返し地点になることを願っているがね。私にとっての全英オープン、最後の晩さん会を楽しむつもりだ。

それが私の現在地だ。私の頭はそういう状態なんだ。まだ競い続けたいし、プレッシャーの中で価値のある“あのショット”を打ちたい。しかし分かっている… ほんの少しはできるかもしれないが、それだけでは足りない。だから全英オープンにさようならをする。

とはいえ、今後も何かの形で全英オープンには携わっていきたい。今後はおそらく、全英シニアオープンに出場することになるだろう。あの大会もリンクスコースを使用するからね。サニングデールは別だが、それ以外はリンクスコースが舞台となる。私はリンクスゴルフを愛している。だからたぶん、シニアでプレーするだろう。

(大好きなスコットランドで印象に残っているのは)たぶん最初の時だな。ジャック・ニュートンとプレーオフで対決した時。家を出る時に雨が降っていて、寒かったのを覚えている。そこにスコットランド人の小さな女の子がドアのところまでやってきて、こう言った。「ミスター・ワトソン。幸運のお守りだから、これを持って行って」とね。

最初は何を言ったのか良く分からなかったんだが、後で気が付いたんだ。アルミホイルに何かが入っていて、それは白のギリュウモドキだった。試合終了後もずっとバッグの中にしまって、お守りにした。彼女が私に幸運をもたらしてくれたんだ。あの小さな女の子は、可愛くて無垢だった。それが私にとってのスコットランドの一番印象に残っている思い出だ。